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元テレビアナウンサーで闘病生活をブログで綴っていた小林麻央(こばやし まお)さんが2017年6月22日夜に療養中の自宅で息を引き取りました。34歳という若さです。BBCの2016年に世界に影響を与えた女性100人のうちの一人にも選ばれるなど、がんとの闘いを包み隠さずブログに書いて、大きな反響を呼び起こしていました。
小林麻央さんがBBCに寄稿した「色どり豊かな人生」を英語で読んでみたいと思います。小林麻央さんによる原文は日本語で、英語版はBBCニュースの大井真理子氏による翻訳です。1文ごとの訳でない部分があり、語句に関しても完全な移し変えになっていない部分があります。
Two years ago, when I was 32, I was diagnosed with breast cancer. My daughter was three, my son was only one. 2年前、32歳の時に、私は乳癌であることを宣告されました。娘は3歳、息子はまだ1歳でした。 I thought: “It’ll be OK because I can go back to being how I was before once the cancer is treated and cured.” 「治療をして癌が治れば、元の自分に戻れるのだから、大丈夫!」と思っていました。 But it wasn’t that easy and I still have cancer in my body. けれど、そんなに簡単ではありませんでした。今も、私の身体は、がんと共にあります。
For a long time I hid the disease. Because my job involved appearing on TV I was scared about being associated with illness or showing people my weaknesses. 私は、テレビに出る仕事をしていました。病のイメージをもたれることや弱い姿を見せることには「怖れ」がありました。なので、当時、私は病気を隠すことを選びました。 I would try to avoid being seen on the way to hospital appointments and I stopped communicating with people so as not to be found out.
隠れるように病院へ通い、周囲に知られないよう人との交流を断ち、生活するようになっていきました。
But while wanting to go back to who I was before, I was actually moving more and more towards the shadows, becoming far removed from the person I wanted to be. After living like that for 20 months, my palliative treatment doctor said something that changed my mind.
“Don’t hide behind cancer,” she said, and I realised what had happened. I was using it as an excuse not to live any more.
I had been blaming myself and thinking of myself as a “failure” for not being able to live as I had before. I was hiding behind my pain.
1年8か月、そんな毎日を続けていたある日、緩和ケアの先生の言葉が、私の心を変えてくれました。「がんの陰に隠れないで!」私は気がつきました。元の自分に戻りたいと思っていながら、私は、陰の方に陰の方に、望んでいる自分とはかけ離れた自分になってしまっていたことに。何かの罰で病気になったわけでもないのに、私は自分自身を責め、それまでと同じように生活できないことに、「失格」の烙印を押し、苦しみの陰に隠れ続けていたのです。
Until that time I had been obsessed with being involved in every part of domestic life because that was how my own mother always behaved. それまで私は、全て自分が手をかけないと気が済まなくて、全て全てやるのが母親だと強くこだわっていました。それが私の理想の母親像でした。 But as I got ill, I couldn’t do anything, let alone everything, and in the end, as I was hospitalised, I had to leave my children. けれど、病気になって、全て全てどころか、全くできなくなり、終いには、入院生活で、子供たちと完全に離れてしまいました。
When I was forced to let go of this obsession to be the perfect mother – which used to torture me, body and soul – I realised it had not been worth all the sacrifice I had made. 自分の心身を苦しめたまでのこだわりは失ってみると、それほどの犠牲をはたく意味のあるこだわり(理想)ではなかったことに気づきました。
My family – even though I couldn’t cook for them or drop them off and pick them up at the kindergarten – still accepted me, believed in me and loved me, just like they always had done, as a wife and a mother. そして家族は、私が彼らのために料理を作れなくても、幼稚園の送り迎えができなくても、私を妻として、母として、以前と同じく、認め、信じ、愛してくれていました。
So I decided to step out into the sunlight and write a blog, called Kokoro, about my battle with cancer, and when I did that, many people empathised with me and prayed for me. 私は、そんな家族のために、誇らしい妻、強い母でありたいと思いました。私は、闘病をBlogで公表し、自ら、日向に出る決心をしました。
And they told me, through their comments, of their life experiences, how they faced and overcame their own hardships. It turned out that the world I was so scared of was full of warmth and love and I am now connected with more than one million readers.
すると、たくさんの方が共感し、私のために祈ってくれました。そして、苦しみに向き合い、乗り越えたそれぞれの人生の経験を、(コメント欄を通して)教えてくれました。私が怖れていた世界は、優しさと愛に溢れていました。今、100万人以上の読者の方と繋がっています。
If I died now, what would people think? “Poor thing, she was only 34”? “What a pity, leaving two young children”? 人の死は、病気であるかにかかわらず、いつ訪れるか分かりません。例えば、私が今死んだら、人はどう思うでしょうか。「まだ34歳の若さで、可哀想に」「小さな子供を残して、可哀想に」
でしょうか?? I don’t want people to think of me like that, because my illness isn’t what defines my life. 私は、そんなふうには思われたくありません。なぜなら、病気になったことが私の人生を代表する出来事ではないからです。
My life has been rich and colourful – I’ve achieved dreams, sometimes clawed my way through, and I met the love of my life. I’ve been blessed with two precious children. My family has loved me and I’ve loved them. 私の人生は、夢を叶え、時に苦しみもがき、愛する人に出会い、2人の宝物を授かり、家族に愛され、愛した、色どり豊かな人生だからです。だから、与えられた時間を、病気の色だけに支配されることは、やめました。
So I’ve decided not to allow the time I’ve been given be overshadowed entirely by disease. I will be who I want to be. なりたい自分になる。人生をより色どり豊かなものにするために。だって、人生は一度きりだから。
英文の出典 http://www.bbc.com/news/magazine-37861457
日本語版の出典 http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38073955
英語訳で
because that was how my own mother always behaved
に対応する日本語の原文には自分の母親という言葉がはっきりとは出てきません。しかし、小林麻央のオフィシャルブログに投稿された記事「こだわり 2016-11-09 17:10:07」には、ほぼ同じ文章が登場しており、そこでは自分の母に関する言及があります。
私も実は、病気になる前から誇らしくない母でした。なぜかというと当然なれるだろうと思っていた自分の母のような母になれなかったからです。自信喪失でした。私は、全て自分が手をかけないと気が済まなくて、全て全てやるのが母親だと強くこだわっていました。それが私の理想の母親像でした。
このエッセイの締めくくりの言葉「人生は一度きりだから」が英訳されていないので、別に記事「人生は一度きり You only live once」を書きました。