ガンのため壮絶な闘病生活の末に亡くなった逸見政孝アナウンサーが、自己紹介のときにジョークでIt’s me.というのだというエピソードを聴いたことがあります。それくらいit’s me.という表現は一般的に使われているわけですが、文法的に it is me.はあり得るのでしょうか?
実は文法的に正しいのは、It is I.です。なぜ、It is me でなく、It is I.が正しいのか?それは、そういう文法のルールが存在するからです。
Is やseemで主語とつながる単語は補語と呼ばれますが、主語(Subject)のことを説明する補語(
Complement)なので、subjective complementと呼ばれます。
【ルール】subjective complementの「格」は、主語の「格」すなわち「主格」にする。
It is me.だと、meは主格ではなく目的格ですから、ルール違反だよというわけです。しかしながら慣用表現として、特に口語では普通に使われます。むしろIt is I.というほうが堅苦しくて不自然な場合すらあります。結局、言葉は状況に合わせて正しく選択すべきものなので、文法的に正しいものが常に正しいとは限らないのです。
参考 Edward D. Johnson. The Handbook of Good English:Revised and Updated. Facts and Fire, Inc. (1991). ISBN 0-8160-2711-0 Rule 1-6. 21-26ページ およびGlossary 358ページ.
同様の表現は電話を受けたときに「メアリーさんはいますか」(Can I speak to Mary?)と相手が聞いてきたときに、「私です。」(This is she.)という場合あります。この場合の受け答えのしかたとしては、
This is she speaking.
あるいは
This is she.
あるいは一言、
Speaking.
などと言います。